物理エンジンを使った空間パズル「あそぶつり」の開発では本当にいろいろな壁にぶつかりました。
物理エンジンを使った開発経験がない人には「物理エンジンさえ使えばリアルな動きが簡単に再現できる」と思われがちでしたが、実際はそんなに甘くありませんでした。 今振り返ると、その苦労のひとつひとつが今のゲームの手触りにつながっていると感じています。
(初期の頃の開発デモ)
物理エンジンがある程度使えるようになったとき、「ドミノ倒しぐらいならすぐ作れるだろう」と軽く考えていました。 物理世界に直方体を並べてボールをぶつければ次々に倒れていくはずです。 ところがこれがまったくうまくいきませんでした。
ドミノが倒れて次のドミノにぶつかると、倒れかけている方が接地面ごと滑ってその場にぐしゃっと倒れてしまいます。 そこで物体同士の摩擦を上げてみると、今度は逆につっかえ棒のようにガッチリ支えられて、まったく倒れなくなりました。
摩擦を強くしても弱くしてもダメ。日常でなら簡単にできるドミノ倒しが物理エンジンの世界ではバカ正直すぎて再現できなかったのです。
最終的に接触する物体の組み合わせごとに摩擦係数を変える必要があるとわかり、ようやく理想の倒れ方にたどり着きました。
たったこれだけのことにかなり時間を溶かしてしまいました。 「あそぶつり」の中でドミノが小気味よく倒れていくシーンにはそんな地味な試行錯誤が詰まっています。
3D空間の中に物を自由に配置できるツールの形には割と早い段階で辿り着きましたが、ずっと引っかかっていた問題がありました。
マウスは前後左右の平面上しか動かせないのに、3D空間の中で自由に動くには前後左右に加えて上下方向の移動や視点の回転まで必要になります。3D空間の中を移動しつつ、好きな場所に物を置き、その物体をつかんで回転させるだけでも恐ろしく難しい操作になってしまうのです。
ゲームコントローラーなどは直感的な操作に特化しているのでこういった面ではかなり優秀ですが、本作はマウスとキーボードを使うので直感的にできる操作というのは極端に少ないのです。 さんざん悩んだ末に、「3D表示ではあるけれど2Dとして動かそう」という思い切った方向転換をしました。奥行き方向の操作をまるごと捨てることで一気に扱いやすくなりました。
この方向転換をした直後、PS3の「リトルビッグプラネット」というゲームの映像がまったく同じように上下左右の移動を中心にした作りになっているのを見て驚きました。 きっと操作性を突き詰めていくと、同じ結論にたどり着くのでしょう。 「あの有名タイトルと似た発想に自分も独自にたどり着いていた」とちょっと嬉しくなったのを覚えています。
ソフト名は最初「ピタゴラスイッチ」をもじって「アルキメデスイッチ」も候補に挙がっていましたが、語呂の悪さから見送り、「遊ぶ+物理」で「あそぶつり」に落ち着きました。 カッコつけて英語にするより親しみやすさを優先した結果です。
もともと映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオープニングに出てくる、自動で動く妙なからくり装置が好きで、高校時代には文化祭の教室でドミノを倒しまくったり、 理科室を借り切ってドミノからボール、花火まで連鎖するギミックを作ったりしていました。「あそぶつり」は、その延長線上にあります。
物理エンジンを使えば簡単にリアルな動きが作れるというのは誤解で、むしろ既存のプログラミングの難しさに加えて物理エンジン特有の制約とも戦うことになります。 毎日のように壁にぶつかっては地道に解決していく作業の連続でした。
そうやって出来上がった「あそぶつり」は、自分の狙った通りに動くこともあれば思いもよらない動き方をすることもあります。 その「まさかこんな動きをするなんて」という驚きこそが、このゲームの一番の面白さだと思っています。
空間に自由にアイテムを置いて、からくり装置を組み上げ、アクションボタンを押した瞬間の快感をぜひ味わってみてください。
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