SYNTAX WARS は、互いの一手を同時に開いて決める一対一の心理戦だ。手を伏せて選び、せーので開く。強は弱を飲み込む。弱はガードを貫く。ガードは強を弾く。ただし強の命中は7割しかないので、最強の手は存在しない。
6人のファイターがいて、それぞれ戦い方が違う。この違いが、ちゃんと違いとして成立しているか。強すぎる者も、弱すぎる者もいないか。それを確かめる必要があった。
最初のうち、CPU は自分で考えていなかった。
キャラクターごとの性格を決めて、「この状況ではこう動く」という行動パターンを一つずつ手で書いていた。体力が減ったらこうする。相手が溜めていたらこうする。そういう条件を並べたものが、そのキャラクターの頭になる。
その CPU 同士を自動で戦わせて、誰が誰に何勝何敗かを表にする。3000戦を1セットとして、50〜70セット。延べ15万戦以上を回した。
数字はきれいに出た。誰が誰に強いか、どの組み合わせが拮抗しているかが、表を見れば分かる。自分で1000試合遊んで感触を確かめるより、はるかに速い。この表さえあれば調整できると思っていた。
NOVA QUEEN がぶっちぎりで最弱だった。
ゲージを溜めて大技を撃つタイプなので、まずゲージの溜まりやすさを上げた。勝率は動かない。もう一段上げた。動かない。さらに上げた。動かない。
上げ幅も変えた。少しずつ刻むのと、一気に倍にするのと、どちらでも順位は同じところにいた。
このあたりで、自分は「このキャラクターの設計そのものが弱い」と思い始めていた。大技を撃つまでが遅すぎるのか。撃ってもリターンが足りないのか。そういう方向で考えていた。
数字をいじっているのに、数字が動かない。おかしいとは思った。ただ、おかしいのは調整の幅が足りないからだと思っていた。
行動パターンを読み直した。
CPU が、その固有技を一度も使っていなかった。
ゲージが満タンになっても、選ばれる手の候補にその技が入っていなかった。使われないものを、速く溜まるようにしていた。何度上げても変わらないのは当たり前だった。
使うように書き直した。最下位から一位になった。
弱かったのはキャラクターではなく、私が書いた行動のほうだった。
この一行が、このプロジェクトでいちばん高くついた勉強になった。数字が動かないとき、動かしている側の式を見ていなかった。壊れていたのは測っている対象ではなく、測る前の段階だった。
数字をいじる前に、その数字が使われているかを見る。当たり前のことだが、当たり前だから誰も確かめない。
ここで方針を変えた。
行動パターンを手で書くのをやめて、CPU が毎ターン損得を計算し、手を混ぜる仕組みにした。同じ場面でも毎回同じ手を出すとは限らない。読まれない程度に散らしながら、損をしない範囲に収める。
ここで初めて、CPU が「読んでくる」側になった。
変わったことは、すぐ分かった。
それまでは、いちばん強い設定の CPU にも余裕で勝てていた。行動を自分で指定していたのだから、当たり前だった。相手が次に何をするかを、書いた本人が知っている。読み合いの形はしていても、中身は答え合わせだった。
作り替えたあとは、勝つのが難しくなった。
自分が勝てなくなったことが、いちばん分かりやすい証拠だった。
そのあと、もうひとつ分かったことがある。
CPU 同士をどれだけ戦わせても、面白いかどうかは測れない。CPU には「自分で選べて嬉しい」が無いからだ。
勝率は測れる。手の偏りも測れる。1試合が何ターンで終わるかも測れる。測れないものが一つだけあって、それがこのゲームの芯だった。
操作を抜いて読み合いだけにしたかった。その読み合いは、人間が選ばないと存在しないものだった。
Steam で無料体験版を配信中です。製品版と同じバトルを体験できます。
フォローすると、開発ログや新作ゲームの公開が通知されます