現在制作を進めている『紅蜘蛛2/Red Spider2 リマスター版』は、日本語テキスト約30万字、全場面スチル化による画像アセット1,500枚以上(現在も増量中)、キャスト35名による音声7,240行(約9.7時間)という規模のフルボイス・ビジュアルノベルです。 個人開発(兼業一人開発)で制作を進める中で、「もしこのプロジェクトを一般的なゲーム開発会社が受託、あるいは自社IPとして制作した場合、どのくらいの開発コストと期間がかかるのか?」を客観的に試算してみたことがあります。
一般的な国内中小開発会社・インディーデベロッパーの稼働単価(1人月=100万〜120万円程度)を基準に、必要な工程をGeminiに試算してもらいました。
会社組織として品質を保ち、給与や管理費を払ってまともに作ろうとすれば、1億円の大台を下回ることはまずないようです。
仮に1.2億円を投じてこのゲームを作った場合、開発費を回収(PBP)するにはどのくらいの販売実績が必要でしょうか。
プラットフォーム手数料(30%)やパブリッシャー取り分、税金などを考慮すると、開発元が手にする粗利は定価の約50%程度です。仮に販売価格を2,500円と設定した場合、すべて定価で売れたとしても約9.6万本が必要です。
さらに、Steam等のインディー市場において売上の大部分を占めるセール販売(30〜50%オフ)やウィッシュリスト層向け割引を考慮すると、平均手残り単価はさらに下がります。現実的に1.2億円を回収するためには12万〜15万本以上の販売が必須となります。
しかし、本作のテーマは「2000年代の香港を舞台にした極太のノワール・劇画調ビジュアルノベル」です。萌え要素や推理要素、ホラー要素といったノベルゲームの王道を排除したこのニッチなジャンルで、10万本以上を売り切るというのは、商業マーケティングの観点から言えば極めてリスクが高く、現実的ではない数字です。
商業パブリッシャーの企画会議に持っていけば、「この企画で10万本回収できる根拠がない」として100%没になるプロジェクトと言えます。
企業では「採算が取れない」として絶対に作れない作品を世に出す方法が、ひとつだけあります。それが「個人開発」です。
個人開発には、企業組織にはない2つの決定的な強みがあります。
企業試算で15人月と弾いた「スクリプト組み込み・演出・UI実装」ですが、私自身の作業ペースで計算すると実質2人月程度で完了します。
企業では演出コンテ作成、スクリプターへの指示、ディレクターのチェック、バグ票の起票といったコミュニケーション・管理コストが膨大にかかります。しかし個人開発なら「作者本人が直接スクリプトを叩く」ため、演出の頭出しから実装・微調整までの伝送コストが完全ゼロになります。
組織開発では、一度完成したアセットの仕様変更や修正要望は最大のタブーです。
実際、本作でスチルが1,000枚以上出来上がった時点で、「主人公と主要人物の1人が、本来つけているはずだった腕時計をつけずに作画していた」ことに気づいたことがありました。
作品の世界観やキャラ立てとしてどうしても譲れない部分だったため、私は過去に作成したスチルを精査し、3日間かけて約600枚のスチルを修正・再出力しました。 今はスチルをざっくり1300枚作った後で効果音やBGMと合わせて演出を調整するフェーズに入っていますが、テンポが悪い地の文を削除したり書き直したり、そして地の文をカットして絵だけで説明する為に細かくカットを割ってスチルを増やしたりといったレベルの修正を連日続けています。(その為1500枚超までスチルが増えているのです)
もしこれが企業チームであれば、スクリプターがこんな判断をすることなんてありえません。仮に要望を上げることができたとしても「進行に支障はないから」「予算も納期もオーバーするから」とプロデューサーに一蹴され、諦めざるを得なかったはずです。
誰の承認も得ず、他人に負荷をかけることもなく、自分の情熱とアセットパイプラインの力だけで「妥協なきクオリティ追求」を選択できること。これこそが一人開発の最大の武器です。
『紅蜘蛛』シリーズをフリーゲームとして提供しているのは、単なる奉仕活動ではありません。
「市場規模が小さく商業ラインには乗らないけれど、自分が心底見たい香港ノワールの世界」を、商業の都合や予算の都合に折れることなく、自分にとって妥協のないクオリティで世の中に存在させるための、唯一かつ極めて合理的な戦略なのです。
商業ベースでは絶対に成立しないニッチな偏愛を、回収コストの縛りなしにどこまでも作り込めること。
企業が1.2億円かけても作れない(作らせてもらえない)歪で濃密な作品を、個人開発の機動性と執着で形にしていくことこそが、インディーゲーム制作者の真骨頂なのだと考えています。
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紅蜘蛛2/Red Spider2リマスター版(Win/Mac/Android/iOSで広告・課金一切なしの完全非営利無料配信)のリリースは来年1月末を目指しています。
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また、昨年リリースしたシリーズ1作目のリマスター版「紅蜘蛛/Red Spider」リマスター版や一昨年リリースした紅蜘蛛外伝:暗花もフルスチル化作品ですのでお気軽に遊んでみてください。いずれもWin/Mac/Android/iOSで完全非営利無料配信中です。
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