7月3日。いつも通り、2人でゲームをしている最中だった。
高校の同級生で、10年以上たった今もずっとこうやって毎晩ゲームをして遊んでいる。合わせて何千時間になるのか、もう数えたくない。
俺たちは遊ぶ専門だった。ずっと、そっち側の人間だった。
絵は描けない。曲も作れない。プログラムなんて一行も書いたことがない。持っているのは「ゲームがめちゃくちゃ好き」という、履歴書に書けない一行だけ。
普通なら、ここで終わる話だ。
「無理でしょ」で笑って、そのまま次の周回に入る。何度も生まれて、何度も消えていく、あの手の話。
でもその夜、俺たちはあるゲームをやっていた。
『TBH(タスクバー・ヒーロー)』
そして2026年初夏、Steamのタスクバー放置ゲーム界隈を襲った、大ブームと混乱(chaos)
画面のいちばん下でちいさな勇者が勝手に戦うそのゲームに、俺たちも漏れなくドハマりしていた。仕事の合間に画面下に目をやり、毎晩ボイスチャットを繋ぎながら「このビルドが強い」「レアアイテムが出た」と盛り上がる日々。
……だが、その平和なお祭りは、ある日突然崩壊した。
引き金は、運営による容赦のない「大ナーフ(大規模下方修正)」だった。 昨日まで愛用していたビルドが軒並み息の根を止められ、プレイヤーたちの不満が爆発。Steamのレビュー欄とSNSは一瞬で大炎上した。
さらに追い打ちをかけたのが、過熱しすぎた市場の狂乱だ。チートや不正アイテムの蔓延、サーバー負荷の限界によって、Steamマーケットの取引機能が突如として全面停止。
画面を開けばサーバーエラー。マーケットは閉鎖。せっかく育てたキャラクターは動かない。 文字通りの「お祭り騒ぎ」の中で、俺たちは満足にゲームを遊ぶことすらできなくなった。
「なんでここ、急にこんな下方修正したんだろ」 「もっとここをこうしたら絶対面白くなるのに」 「マーケット止めるのはわかるけど、ゲームプレイまでガタガタにするなよ……」
画面を見つめながら湧き上がってきたのは、猛烈な歯がゆさと、大好きなゲーム体験が壊れていく悔しさだった。
「満足に遊べないなら……もう、自分たちで理想のやつ作ってみる?」
冗談半分の、あまりにも軽い一言だった。 でも、その悔しさと歯がゆさの熱量が、俺たちの背中を明らかな暴走へと押し出した。
22時31分。
それが、最初の記録として残っている。
その日の作業は3回ぶんだけ。企画書と、動くかどうかも分からない試作の入口。
38日後にSteamで公開することになるなんて、当然、思っていない。
ここから俺たちのゲーム開発が始まる。
8月10日、画面のいちばん下に、小さなバーが現れます。
そこにモンスターが住みついて、あなたが仕事をしている下で、勝手に戦って、宝箱を持って帰ってきます。
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売れても、売れなくても、続きは必ず書きます。第2話をお楽しみにしてください。