実は私は第2級アマチュア無線技士の資格を持っています。そのためモールス符号の知識があり、さすがに和文符号は忘れましたが、英文であれば今でも(速くなければ)聞き取ることができます。おかげで、映画などでモールス符号が出てくるとついつい耳が反応してしまいます。
最近でも、東京国際映画祭で上映された映画『腹喜』の冒頭で流れていたモールスを聞き取ろうと集中しすぎて、字幕を読み忘れてしまったほどです。
私のオールタイムベスト作品である『インファナル・アフェア』には、モールス符号がさまざまなモチーフとして使われています。
例えば、潜入捜査官のヤンが隠しマイクを通し、上司のウォンに対して窓ガラスを叩いて現場の様子を伝えるシーン。実際には打音だけだと短点(・)と長点(-)の聞き分けが難しいため現実的な通信は厳しいのですが、演出として使われています。
さらに、ウォンが自身のPCにかけているパスワード。劇中では「パスワードは『潜入』だ」というセリフになっていますが、実際に画面の入力欄に打たれているのは以下の文字列です。
・・__・_・・・・_
これは「潜入」を意味する「UNDERCOVER」という単語の冒頭部分です(※正確にはRの最後の「・」までは画面に映りません)。
・・_(U) / _・(N) / _・・(D) / ・(E) / ・_・(R)
十数回目の劇場鑑賞でこれに気付いたときは、思わず心の中で小躍りしました。
『紅蜘蛛』シリーズは『インファナル・アフェア』に深いオマージュを捧げている作品です。そのため、作中にはモールスネタをふんだんに盛り込んでいます。
例えば、『紅蜘蛛2』で扉をノックする音。 この特徴的なリズムは、モールス符号の「・・ーー・・(問号/?)」を叩いている想定です。長点は短点より間隔を長く取っているためこのように聞こえます。(これが前述した「打音だけでは本来長短の聞き分けが難しい」という実例でもあります)
次は、作中で吹かれる犬笛の音。 1度目に響くのは「・・・- ・・・- ・・・-」。
これは「・・・-(V)」を3回続けて送信するもので、試験送信の時に使う「調整符号」です。「天空の城ラピュタ」にも出てきます。
2度目の音は「ー・-・-」。これは「ー・-(K)」と「・-(A)」を間隔を開けずに繋げたもので、「送信開始」を意味するコンタクト符号です。
この場面では、1度目の音で「近くに待機していること」を伝え、2度目の音で「作戦開始」を合図するという意図で組み込んでいます。
さらに『紅蜘蛛3』では、直接的に『インファナル・アフェア』へのオマージュとして、PCのパスワードを解読する場面を作りました。
劇中のPCにはDESという暗号アルゴリズムが使われており、パスワードの文字数は「8文字」に制限されています。ヒントは「潜入」ですが、英語の「UNDERCOVER」は10文字あるためそのままでは入力できません。
登場人物たちは「UNDERCVR」など適当に2文字抜いて試しますが、当然弾かれます。
ヒロインはこのパスワードをかけた人物とモールス符号でやりとりしたことがある為、それを使った仕組みがあるのではないかと推理します。
まず「UNDFCOVF」と打ち込みますが失敗。
次に「UNBRCOVF」と入力し、見事解除に成功します。
これには以下のモールス符号の結合トリックを使っています。
つまり、「ER(・ + ・-・)」を繋げると「F(・・-・)」になり、「DE(-・・ + ・)」を繋げると「B(-・・・)」になります。
10文字の「UNDERCOVER」をこのルールで8文字に縮めるパターンは、理論上この2通りしか存在しません。
ただオマージュするだけでなく、自分の知識を使ってひと捻り加えたオリジナルの暗号パズルです。
こうした細かいこだわりに気づいて面白がってくれる人は、正直言って非常に少ないと思います。現に元ネタである『インファナル・アフェア』のパスワード入力欄のモールスに気づいている人も、ほとんど見かけません。
けれど、「画面の向こうの誰か一人でも気づいてニヤリとしてくれたら儲けもの」という密かな仕掛けを自分の知識で忍ばせられること。それこそが、個人で制作するゲームづくりの一番の醍醐味なのかもしれません。
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