以前書いた通り、『紅蜘蛛』シリーズは香港ノワール映画のファンを増やし、日本で公開される香港ノワール作品を増やしたいという思いからスタートした作品です。
作中に登場する166人のキャラクターにもすべて当て書きの元となった俳優が存在しており、本作における開発の要は間違いなく「映画からのインプット」にあります。
ここ10年ほどは、旧作も含めて年間約150本(すべて劇場鑑賞)のペースで観ています。内訳は華流(香港・台湾・中国)が約50本、韓国映画が約30本、残りがその他アジア圏、ハリウッド、アニメ、邦画など。ジャンルはアクション・サスペンスが中心です。
フルタイムで本業を抱えながら、この膨大なインプットとゲーム開発をどう両立しているのか、その時間配分と作品への還元についてまとめました。
平均すると週3本ペースですが、毎週均等に観ているわけではありません。映画祭(大阪アジアン映画祭、東京国際映画祭、中国映画週間、フィルメックス、香港映画祭など)の時期に有給休暇を取得し、それぞれ集中して10本ほど鑑賞します。これで年間約50本。
残りの100本(週平均2本ペース)は、週末に1日4本ハシゴするなどして調整しているため、全く映画を観ない週末も普通に存在します。
平日の基本スケジュールは以下の通りです。コロナ禍以降、完全リモートワークになり通勤時間のロスがないことが大きなアドバンテージになっています。
週末は「1日=家事+映画鑑賞」「1日=ゲーム制作」と役割を完全に分担しています。
先日の記事で触れたスチル量産においても、3Dセット構築に1〜3日かけ、セット完成後は1時間で1〜3枚撮影するというペースをこの時間枠の中で回しています。
ちなみに、私のインプットはほぼ映画に偏っており、ゲームのプレイ本数は年間1〜2本程度です。そのため、他のノベルゲーム制作者の方から「インスピレーション元がどこにあるのか全く分からない」と言われたことがあります。元ネタを知っている・知らないという話ではなく、ゲームを主なインプット源にしている作り手から見ると、どういう引き出しやロジックからそのストーリー構成や発想が出てきているのかが見えにくいようです。
『紅蜘蛛』シリーズの画面や展開が一般的なノベルゲームと少し異なる手触りになっているとすれば、それはゲームの文法ではなく、映画の文法(カット割り、アングル、登場人物の動線)をそのまま画面に落とし込んでいるからだと思います。
こうして取り入れたインプットは、キャラクター設定やアクションスチルの構図としてダイレクトに作品に落とし込まれます。
例えば、以下のスチルをご覧ください 右側でナイフを構えている人物(ラムローワン)は、韓国映画『アジョシ』のキャラクターから名前を引用しています。作中で彼が使うカランビットナイフはインドネシアの武術「シラット」で用いられるため、構えのポーズはシラットアクションで有名なインドネシア映画『ザ・レイド』の印象的な場面を再現しています。(なお、『アジョシ』も『ザ・レイド』もアジアンアクションの金字塔です。機会があれば是非ご覧ください。)
また、こちらの登場人物「デュー」はタイ映画『チョコレート・ソルジャー』の登場人物名を引用したムエタイ使いの設定です。
この二人のアクション場面はこんな感じ。ノベルゲームという静止画主体の媒体でスピード感のある格闘アクションを表現するのは難度が高いですが、映画のカット割りや構図の記憶をベースに試行錯誤を重ねています。
このように、『紅蜘蛛』シリーズには香港映画だけでなく、アジア各国のノワール・アクション映画のエッセンスが細かく散りばめられています。
ただ、今年(2026年)はこのインプット環境に大きな変化が起きています。
万博との兼ね合いで変則的な開催になった大阪アジアン映画祭の不在、中国映画週間の中止発表、さらに東京国際映画祭でも香港・中国映画のラインナップが激減し、香港映画祭の開催も危ぶまれる状況が続いています。
現時点で今年の鑑賞数は90本ほどですが、年内残りを考えても今年は110本程度にとどまる見込みです。観たい作品が劇場にかからないという現状は、アジア系アクションノワールをインプットの源泉とする制作環境にとって小さくない課題と言えます。
兼業でのゲーム開発において、インプットの時間を削って作業に充てる選択肢もありますが、作品の熱量を維持するためには、インプットの時間も開発工程の一部としてスケジューリングすることが不可欠です。
インプット環境の変化に直面しつつも、限られた上映機会をキャッチしながら、今後も映画への敬意を込めた画面作りを続けていきたいと思います。
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