ゲームの面白さや楽しみ方、好きなジャンルは人それぞれです。
万人に刺さる企画を作るのは難しい。プロモーションに大きな費用をかけられない小規模プロジェクトなら、誰を最初のターゲットにするべきかと考え、『NEKOHERO』では「配信者」をターゲットにしました。
もちろん配信者に宣伝してもらうことだけが目的ではなく、遊んでいる本人が楽しめて、その面白さが画面越しの視聴者にも伝わるゲームであることを前提としています。
私自身がゲーム配信をしていた経験も、この企画のきっかけになっています。 配信しやすいゲームもあれば、どう見せ場を作るのか迷うゲームもある。特に知名度を持たない配信者にとって、配信で扱いやすいゲームは意外と限られていると感じていました。
企画、操作、UI、フレーバーテキストのすべてを「配信したときにどう見えるか」というコンセプトを軸に設計しています。
ベースとなる企画が生まれるまでにかかった時間は、およそ3分くらいでした。
最初に考えたのは、画面を見た人が興味を持ちやすいキャラクターです。
ゲームの好みは人によって異なりますが、猫は年齢や性別を問わず親しみを持ってもらいやすく、ゲームに興味を持ってもらう入口を広げられると考えました。 最終的に猫かラーメンかを悩んだ末、「多言語展開するなら猫だろう!」ということで猫に決めました笑
次に考えたのは、配信者と視聴者が同じ瞬間を楽しめる仕組みです。
あらかじめ用意されたストーリー進行を追うのではなく、プレイするたびに何が起きるか分からない。その予想外の展開を視聴者もドキドキしながら一緒に楽しめるよう、物理演算を採用しました。
iPhoneが登場した頃、ゴミなどを投げてゴミ箱に入れるシンプルな物理演算ゲームが流行しており、よく遊んでいたのを覚えています。
物理演算を使いながら、プレイヤー次第でさまざまな攻略方法を生み出してもらいたくて、投げる力や角度を調整する要素が必要だと考え、これを『NEKOHERO』の基本操作の原型としました。
ただ、猫を目的地に投げ入れるだけでは、一回投げるごとに結果が完結してしまいます。
一投ごとの驚きは作れても、それまでのプレイが次の展開に影響しなければ、ゲーム全体を通した緊張感は生まれにくい。 そこで、投げた猫同士がくっついたり、衝撃ではがれたりしながら、少しずつ橋を作るルールにしました。
前に投げた一匹が、次の一投にも影響する。これによって順調に積み重ねていた猫たちが、たった一度の衝撃で大きく崩れるかもしれないという緊張感が生まれます。
偶然に起きる一回の出来事だけでなく、それまでの結果が積み重なった末に「予想外」が生まれる。配信者と視聴者がその瞬間を一緒に見守れる。そんな構造なら成立するだろうと考えました。
その後、世界観として「なぜ橋を作る必要があるのか」を考え、猫たちが作った橋を渡って向こう岸を目指すヒロインの設定を加えていますが、世界観はゲームルールを成立させるためのシンプルな設定に留めています。
『NEKOHERO』では、左右のキーを交互に連打して、猫を投げる力をためます。
遊びやすさだけを考えれば、ボタンの長押しでも成立しますが、連打を採用したのは、操作方法まで「配信映え」というコンセプトに合わせたかったからです。
VTuber界隈では、キーボードを打つ音や机に触れる音など、いわゆる「生活音」に独特の価値があります。
視聴者が配信者の存在を近くに感じられる要素の一つです。
左右キーを連打することで、焦りや力の入り方がキーボード音を通じて視聴者にも伝わります。
開発当初は、キーボード音でゲーム内の効果音がかき消されると思い、連打中のSEを実装していませんでした。
その後、リリースに向けてPV撮影をしていた際、配信者側のマイク設定でノイズキャンセルを使っている場合、「これ、ノイキャンで消えるのでは?」という可能性に気づきました。
視聴者に音が届かなければ、狙っていた演出そのものが成立しません。そこで、リリース直前に連打SEを急きょ追加しました。
ノイズキャンセルで音が消える環境だったとしても、SEによって操作の勢いが伝わる。 「めっちゃ連打してんじゃん!」なんてコメントを想像しながら考えた仕様ですね笑
配信画面には、ゲーム映像だけが表示されるわけではありません。
VTuberやゲーム配信者は、自身のアバターやカメラ映像を画面下部、特に右下に配置する傾向があります。
『NEKOHERO』では、ゲームを進めるために必要な情報を画面下部に配置しないようにしました。
ゲーム単体で見たときに分かりやすいか。それだけではなく、配信画面として再構成されたときに情報が隠れないかも確認しています。
ゲーム画面の上に何が重ねられるのか。それもUI設計の一部です。
他にも、クリアタイムに応じてトロフィーを獲得できるスコアアタック要素も用意していますが、デフォルト設定ではタイム表示はオフとしています。
理由としては、初見では時間に追われず、物理演算や猫を投げる楽しさを味わってもらいたいからです。
※UIのレイアウトを決めるための開発中の画面
配信者によって視聴者数や配信スタイルは異なります。
ゲーム内に読み上げられる文章があることは、配信するうえで一つの助けになります。 一方で、文章が長すぎると読み上げに時間がかかり、配信のテンポを落とす可能性があります。
そこで、フレーバーテキストは「短く、読みやすく、ツッコミを入れやすいこと」を基準に設計しました。
紹介文の構成も統一しています。生息地、見た目の特徴、名前の由来を短い文章で伝えるルールにしています。
無難な情報を並べるだけでは読み上げが単調になり、配信者としては退屈な時間になりやすいです。そのため、短い文章の中に少しだけ違和感を加えました。
例として「DJ」という猫には、次の紹介文があります。
自由自在に皿を回すクールなNEKO。目撃情報によると、その完成されたパフォーマンスが名前の由来。
DJが回す「皿」といえば、通常はターンテーブル上のレコードを意味しますが、この猫は、細い棒の先端で「レコード」を回しています。
文章だけなら自然に読めますが、画像を見ると「DJなのにそっちの皿なの!?」という違和感が生まれます。
文章そのもので笑わせるのではなく、画像とのズレを作り、配信者がツッコミを入れられる余白を残しました。
『NEKOHERO』では、基本的にビジュアル素材を生成AIで制作しています。
プロモーション費用を含め、大きな予算を用意できない小規模開発なので、すべての要素を均等に作り込むのではなく、どこに時間と費用を使うかの取捨選択が必要でした。
背景やUIデザインは、コンセプト上の優先度を考え、必要最低限の品質に絞っています。 またヒロインのクオリティも、51匹の猫に比べて作り込みを抑えています笑
『NEKOHERO』で最も時間をかけたのは、物理演算の触り心地でした。
猫がくっつく強さ、衝撃ではがれる感覚、狙った場所へ投げられる手応え、思いどおりになりすぎない偶然性など。
プレイヤーが納得できる部分と、予想外の出来事が起きる部分、そのバランスを探しながら、何度も手作業で調整しました。
生成AIを使えば、ビジュアル素材を作る工数は抑えられます。ただ、プレイしたときに納得できる猫の動き(物理演算)や、もう一回投げたくなる感覚まで、AIだけで作り込むことは現状では難しいと感じています。
配信で見栄えの良い仕組みを取り入れても、操作したときの感触が悪ければ、ゲームそのものを受け入れてもらえないんです。
『NEKOHERO』というゲームを考える以前から、弊社MIRAQLstudioでは「奇跡を創る」を行動指針に掲げています。
立ち上げて間もない小さな会社が奇跡を起こすには、小さな可能性を一つずつ積み重ねていく必要があります。
『NEKOHERO』では、日本語と英語だけでなく、Steam上で利用者の多い言語を基準に対応言語を選定しました。
小規模だから海外展開を諦めるのではなく、小規模だからこそ、見つけてもらえる可能性を少しでも増やしたい。配信を通じて多くの人に届く可能性を広げるのと同じように対応言語を増やすことで、世界中の誰かに見つけてもらえる可能性を少しでも高めたいと考えました。
今回はアラビア語にも対応をしています。 リリース直前にゲーム開発での苦労話がSNS上で注目されているのを見かけました。 良くも悪くも話題になっているなら、あえて挑戦してみようとストア公開後に急きょ追加しました笑
余談ですが、たくさんの猫を一匹ずつ積み重ね、向こう岸まで橋をつなげるゲームルールも「奇跡を創る」という会社の行動指針と重なっています。
小さな力を積み重ねることで、それまで届かなかった場所へ手を伸ばす。 『NEKOHERO』は、会社としての考え方をゲームにした作品でもあるんです。
ここまで「配信映え」を意識した設計について書いてきましたが、その設計が実際に機能したのかは、現時点ではまだ答えが出ていません。
だってまだ誰にも配信されていないので笑
誰かに見つけてもらったあとから、この企画の検証が始まります。
操作、UI、テキストに仕込んだ狙いが、本当に配信者と視聴者が一緒に盛り上がる体験につながるのか、これから遊んでもらう中で、その答えを確かめていきます。
もちろん配信をしない方にも楽しんでもらえるゲームとして作っていますので!
『NEKOHERO』が広まり、世界中の人に遊んでもらえたら嬉しいですし、利益につながれば、さらに嬉しいのですが、仮に大きな売上につながらなかったとしても、この作品に価値が無いわけではありません。
『NEKOHERO』は、会社にとって一つ目のゲーム開発実績です。
デザインや作り込みに大きなお金や時間をかけられなくても、どんなコンセプトを立て、どう設計に落とし込み、どこまで形にできるのか。
プロデューサーやディレクターとして、こういう考え方でゲームを作るクリエイターがいると伝えることにも価値があるのではないかと思っています。
お金をかければ、リッチなデザインや大量の素材はある程度までは作れますが、お金をかけただけでは、ゲームの面白さの核や、今回のようなコンセプトを立案することはできません。
次回作も同様に、配信映えはもちろん、特殊なコンセプト設計にこだわった企画になっており、現在も開発進行中です。
作品を一つずつ積み重ねながら、いつの日か「MIRAQLstudioにゲーム企画を作ってもらいたい」と言ってくださる企業の方と出会えたらと思っています。
しかし待っているだけでは出会いは、奇跡は起きません。 そのためにも引き続き新しいコンテンツを開発し奇跡に向かって作品を積み重ね続けていきます!
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