最初に『紅蜘蛛』の音楽を塩生康範さんにお願いした際、快諾いただいたものの、私自身もどう進行すべきか完全には掴めていませんでした。
何しろノベルゲームを作るのはこれが初めて、ましてや他の人に何かを依頼したこともなかったからです。
ただひとつ分かっていたのは、塩生さんが過去に『エストポリス伝記』の楽曲を手掛けた際、「海の曲」「山の曲」といった漠然とした発注に苦労されたというエピソードだけでした。
そもそも「香港ノワール」というマイナーなジャンルがノベルゲームとしてどう成立するのか、文章だけで伝えるのは不可能です。
そこで私は、塩生さんから内諾をいただいた1週間後、全6ルート(スクリプト部分を除いて15万字)のシナリオをすべて書き上げ、背景・仮立ち絵・仮SE・仮BGMまであてた「動く完動プロトタイプ」をそのままお渡しするという力技に出ました。
スケジュールを振り返ると、制作開始が2014年5月3日、依頼メール送信が5月23日。そして回答をいただいてからこの完動プロトタイプをお渡ししたのが6月3日です。開発着手からわずか1ヶ月での提出でした。
(※なお筆者は専業のゲーム開発者ではなく、フルタイムの別職を持ちながら余暇の時間を使って制作しています)
塩生さんから楽曲のラフが届く7月9日までの間は、ひたすらグラフィック(背景70枚と立ち絵が差分込70枚ぐらい)やSE(約80種)のブラッシュアップに費やしました。シナリオについては塩生さんにお渡しした以上大きくは変更できないという制約がありました。何度も読み返すうちに「これは本当に面白いのか」と不安に苛まれる瞬間もありましたが、憧れの作曲家に楽曲を書いていただく以上、プレイヤーを失望させるクオリティで出すわけにはいかないという強いプレッシャーを原動力に、その時点でのベストを尽くしました。
そして、このブラッシュアップの過程で「自分が真に作りたい表現」がより明確になりました。
何もかも手探りだったところからひとまず完成させる過程でよりよくする為にはどうしたらいいかという分析を行うことができ、「次作(『紅蜘蛛2』)からはもっと自分の美学に沿ったものに振り切ろう」という覚悟が生まれたのです。
最終的に全楽曲が揃い、第一作『紅蜘蛛 / Red Spider』(PC/Mac版)をリリースしたのは同年7月18日。その後、7月20日にAPK版を作成、8月4日にGoogle Play、8月27日にはApp Storeへ登録と、怒涛のマルチプラットフォーム展開へ雪崩れ込んでいくことになります。
これを皮切りに、私の『紅蜘蛛』シリーズ開発は本格的に加速していきました。
初期の作品におけるBGMは、テーマ曲やバトル曲、エンディングといった主要曲を塩生さんや中島さんに書き下ろしていただき、日常や軽微な場面で使う大量のBGMはフリー素材で補うという構成をとっていました。
しかし2024年、『紅蜘蛛外伝:暗花』の開発に着手した際、私はひとつのツールと出会います。AI作曲サービスの「Suno」です。
Sunoには、提示した短いフレーズをもとにバリエーション(アレンジ曲)を出力する機能がありました。
映画のサウンドトラックの多くが、ひとつのキーとなるメインテーマの変奏によって作品全体の統一感を作っていることに思い至ったとき、「この機能を使えば、ゲーム全体に一貫したトーンを持たせられるのではないか」と考えたのです。
何より、フリー素材と違って他作品と楽曲が被ることもありません。
私はこの構想を塩生さんに相談し、塩生さんが制作された楽曲フレーズをもとにSunoでアレンジを展開することの許諾をいただきました。
それによって、『紅蜘蛛外伝:暗花』以降のBGMラインナップには、テーマ曲のフレーズを再構築したアレンジ楽曲群が組み込まれることになりました。
ただし、この制作プロセスも決して容易なものではありません。
生成AIは音質に課題が多く、激しいノイズが乗ることは日常茶飯事でした。曲の途中で唐突に転調した挙句、ブチ切れるように終わってしまうパターンも頻発します。
そこで私は、とにかく数百曲単位でアレンジの出力を行い、使えるフレーズを徹底的に吟味しました。そして、なるべく良好なパートを切り出して繋ぎ合わせ、ニコイチ、時にはサンコイチという手作業の波形編集(切削・結合)を経て、個々のBGMを切り出していったのです。
そうした過酷な調律プロセスを経て完成した楽曲のひとつが、以下の音源です。
つい先日(2026/09/09)Sunoのバージョンはv6系になり、アレンジのアルゴリズムが大きく変わりました。元のモチーフへの忠実さをパーセントで指定できるようになりましたが、パーセントを上げると曲調もほとんど変わらないものになり、かといって下げるとモチーフがほとんど消えてしまったりします。
現在開発中の最新作「紅蜘蛛2/Red Spider2 リマスター版」用のBGMについてはまた別の形の試行錯誤を行っているところです。
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紅蜘蛛/Red Spiderリマスター版は、Win/Mac/Android/iOSで広告・課金一切なしの完全非営利無料配信のゲームです。
また、現在その続編にあたる紅蜘蛛2/Red Spider2 リマスター版(もちろん非営利無料配信)の制作進行中です。
興味を持った方は是非ウィッシュリストにご登録ください。
一昨年リリースした紅蜘蛛外伝:暗花もフルスチル化作品ですのでお気軽に遊んでみてください。こちらもWin/Mac/Android/iOSで広告・課金一切なしの完全非営利無料配信のゲームです。
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